2022年4月からセミリタイア生活に入り時間が出来ましたので、蔵書の小説を読み直しております。
2004年発表作品。
同世代では一番好きな作家である伊坂幸太郎。
デビュー作から順に読み直しております。
本作は初期作品の中では一番のお気に入りかも。
伊坂の「殺し屋」シリーズの一作目。
物語の舞台は東京。
妻を殺された中学校教師「鈴木」は犯人である「寺原」に復讐するために寺原が幹部を務める悪徳会社に潜入し復讐の機会を伺っていたところ、目の前で寺原が背中を押されて車に轢き殺されるのを目撃してしまいます。
それは「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業と思われ、謂わば復讐の機会を奪われた鈴木は押し屋の姿を追うことに。
一方、依頼された標的を自殺に追い込むと言う特殊な能力を持つ殺し屋「鯨」には、かつて標的を押し屋に奪われた過去が。自殺に追い込んだ者の亡霊に苛まされる鯨は全てを清算するために押し屋を追うことに。
また、ナイフ使いの若き殺し屋「蝉」もある理由から押し屋を探すことに。
鈴木・鯨・蝉の三つの視点から描かれる物語は、その三者と押し屋が交錯することで予測不能なまま加速して行きます。
「殺し屋」を扱ってますのでけっこうエグい話なのですが、オフビートな文体といつも通り機知に富む会話劇でサクサク読み進められます。
殺し屋それぞれが心の闇を抱えており、その描写が秀逸。
鯨が唯一繰り返し読む小説が「罪と罰」であったり(作中ダイレクトにタイトルが表記されてませんが明らかにそれ)、蝉に仕事を斡旋する岩西が常にジャック・クリスピン(全くの架空のミュージシャン)の言葉を引用するところであったり、蝉がガブリエル・カッソ(これも全くの架空の映画監督)の映画に囚われていたりと細かいところで伊坂節全開です。
張り巡らされた伏線の回収も鮮やか(「スズメバチ」と云う殺し屋の部分などお見事)。
伊坂先生は殺し屋がお好きな様で、本作に連なる「マリアビートル」「AX アックス」と云う作品を後年に書いてます。
伊坂幸太郎がハードボイルドもしっかり描けることを証明した本作、ぜひご一読を。
では、また。