2022年4月からセミリタイア生活に入り、時間が出来ましたので蔵書の小説を読み直してます。
今回は伊坂幸太郎「オーデュボンの祈り」。
2000年発表作品。
自分と同世代(1970年代前半生まれ)の作家さんにはやはり興味があり、その中でも伊坂幸太郎氏はトップランナーと言え、この20年著作には楽しませてもらってます。
「オーデュボンの祈り」は氏の記念すべきデビュー作。
物語は主人公である伊藤がコンビニ強盗に失敗し逮捕されるも逃走に成功し、見知らぬ家で目覚めるところから始まります。
その家があるのは江戸時代末期以来外界から遮断されている「荻島」と呼ばれる島で、様々な奇妙な人達が居住しています。
中でも人語を操り未来を予言できるカカシ(島民は普通に受け入れている)が登場して伊藤に謎の予言を残し、翌日に殺されて(バラバラにされ、頭の部分を持ちさられて)しまいます。
未来を見通せるはずのカカシがなぜ自分の死を阻止できなかったのかを伊藤と島民が探って行くミステリー仕立ての物語となっています(詳細はお読みになってご確認をw)。
喋るカカシの殺害事件の物語ってもうそれだけでシュールな設定なのですが、伊坂幸太郎特有のユーモアある語り口でさくさく読めます。
作中に散りばめられたピースが物語終盤に組み合わされる構成はさすが伊坂と思わされるものです。
「世の中ではひどいことが起きて、それを防げないことも多い。だけど人の悪意はやっぱり許してはいけない」と云う、その後の伊坂の作品に底通している思いみたいなものの萌芽が見受けられる作品かと。
あと、大概の小説は章を数字で区切るところ本作はその章に関連する小さなイラストで区切ってます。この手法はその後の作品にも継承されており、デビュー作で確立されていたんだなぁと。
ちなみに「オーデュボン」はアメリカの作家で鳥類学者のこと。カカシから発せられるこの人物の研究が物語の一つのキーとなっています。
シュールな設定のデビュー作と言うこともあり大傑作とまでは賞賛しませんが、その後の大活躍を予感させるには十分な作品です。
では、また。