2022年4月からセミリタイア生活に入り時間が出来ましたので、蔵書の小説を読み直しております。
今回は桐野夏生「柔らかな頬」。
1999年発表作品。
直木賞受賞作。
個人的には作品によって当たり外れがあると感じる桐野夏生先生ですが、本作で見事に直木賞を受賞されましたね。
本作の主人公・カスミは小さな製版会社を営む夫と幼い子供(二人姉妹)の四人家族。
その製版会社の重要なクライアントであるデザイナー・石山(妻・二子あり)と不倫関係になり、石山が所有する北海道の別荘へ家族で遊びに訪れます。
その別荘で二人は両方の家族の目を盗んで逢引きを重ねることに。。
逢引きしたある翌朝、カスミの長女・有香(5歳)が謎の失踪を遂げることから物語の幕は開くことになります。
閉ざされた別荘地(石山一家・カスミ一家の他は、近くの別荘を所有するある一家、別荘地の管理人夫婦及びその使用人くらいしか存在しない)での失踪。
事故でないとすれば、その犯人は・・・
失踪の舞台である北海道はカスミが実は生まれ育ちそして捨て去った土地でもあり、序盤はゴリゴリのミステリーなのかなと思って読み進めると、謎解きと云うよりはカスミの過去から現在の心の揺れ動きを丹念に描くことに重点が置かれています。
有香の失踪から4年が経過。
カスミと石山の関係は崩れ去り、お互いの家族仲にも亀裂が生じている中、癌により余命いくばくもない元刑事・内海が再捜査を申し出ることから事態はまた動き出すことになります。
内海と共に有香の姿を求めるカスミの行き先には何があるのか。
余命いくばくもない内海が再捜査を申し出た理由とその最後は。
果たして有香失踪事件の犯人は判明するのか。
などと云う要素を孕みながら物語は突き進んで行きます。
桐野夏生文学に通底するテーマとして「日常からの脱出・解放」と云うものがあると感じるのですが、本作のテーマもそこにあるのではと思える作品となっています(失踪事件はそのガジェットにしか過ぎないとも言えるかと)。
最終章は有香の視点から語られており、事件の真相(の一部のようなものw)が示唆されて物語は幕を閉じます。
単なるミステリーの枠には収まらない本作、ぜひご一読ください。
しかし、桐野作品って読む度に女性のことが怖くなりますww
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では、また。